銀行員の海外現地法人で必要な英語スキル

2021年9月2日

心理学系研究職に必要な英語スキル

今回は、アデュールの英会話講師の中で、メガバンクにて海外勤務経験のある講師による「銀行員の海外現地法人で必要な英語スキル」というテーマとなります。


私は、我が国のメガバンクにて海外勤務経験のある元銀行員です。
米国、英国と通算11年の海外業務を経験し、現地での地位はマネジメント及びエグゼクティブクラスでした。様々な業務を経験いたしましたが、ここでは特に私自身が経験いたしました業務の一つであります米国でのCommercial Banking (商業銀行業務)を中心に、様々なビジネスシーンで必要とされる英語の能力や考え方について、述べさせていただきます。

 

1.組織人としての一般的な英語力

1.組織人としての一般的な英語力

邦銀の資本を投入した現地法人では、派遣行員は最低でもofficer(管理職) 以上の地位になりますので、基本的には個室が与えられ、秘書が1名付き、主に現地スタッフを部下に持つことになります。

つまり一般のスタッフクラスとしては研修等を除き、派遣されないということです。すなわち自分のリーダーシップのもと、現地人スタッフに指示命令を出し、うまく使いながら業務を遂行し、東京の期待に応えるのが与えられるmissionです。

又、 立場によっては上司も現地人であるケースもありますが、その場合、東京の方針と彼らの意見が食い違うことがしばしばあります。その様な時には、彼らを説得して東京の方針に従うようにさせるのも重要なmissionです。但し、東京が現地の事情を100%理解している訳ではありませんので、現地の意見をよく聞いた上で、場合によっては東京に理解を求めることも大切になってきます。従いまして、ここで必要な英語力は、

【組織内の人との英語による相互の意思疎通が完全にできること。】

となります。

「部下の言っていることがlisteningできません。」、又、「上司の喋るのが速過ぎて考え方が十分把握できません。」、さらに、「私はこう言ったつもりなのに、言葉足らずで部下にうまく伝わらず、失敗しました。」などと言っていると、「あなたはもう米国勤務は結構ですので、航空チケットを秘書に用意させて可及的速やかに家族と共に日本へお戻りください。」と東京から帰国命令が来ることにもなりかねません。

せっかく住む家も決め、日本からの引っ越しも終わり、子供も学校に通い始め、現地スーパーでの買い物にも慣れ、新たな生活が始まったばかりなのに、撤収を余儀なくされ、公私共に大変な事態となります。

 

2.プロフェッショナルとして必要とされる英語力

2.プロフェッショナルとして必要とされる英語力

2-1.企業取引部門の融資部のmanagerの例

派遣行員は組織人であると同時に、高度な業務をこなし、リードするプロフェッショナルです。
現地銀行の場合、Corporate Banking(企業取引部門)、Private Banking(個人取引部門)、Computer System(システム部門)、 Operation(事務部門)、 Corporate Planning(企画部門)、Human Resources(人事部門)等々を担当することになりますので、各分野で英語を駆使して日々業務をこなすことになります。従いまして、現地の関連法規、行内のマニュアルは当然のことながら熟知しているのが基本です。(もちろん全て英語です。)

Corporate Banking 部門のCredit Department(融資部) のmanagerを例にとりますと、Marketing Department(営業部門)より上がってくる融資案件を部下がチェックした後、審査する場面があります。本文や添付資料(財務諸表、納税申告書、collateralとなる不動産の鑑定書等)はともに当たり前ですが全て英語です。本文は十数ページにわたり、不動産鑑定書に至ってはちょっとした辞書程度の厚さがあります。それがCredit Committee(融資会議)の2~3日前に銀行の規模にもよりますが通常10件以上手元に届きます。

日本の社内書類のビジネス文化はペーパー2~3枚程度に簡潔にまとめることが重要で且つ能力の問われるところですが、米国人ビジネスマンのカルチャーとしてページ数をできるだけ多くするという習慣があります。つまり「自分はこんなに調べたんだぞ。」、「自分はこんなに知っているんだぞ。」という姿勢をアピールするためです。日本とは正反対のビジネス習慣です。

managerである派遣行員はこれらの案件を限られた時間内に単に読むだけではなく、十分な内容理解に基づき融資できるかどうか、1件1件自ら分析し、場合によっては独自のルートで外部情報を調べ、又、案件によっては弁護士と電話会議を行い、熟考の上判断し、結論を導き出すのです。ここでまず要求される英語の能力は、

【関連する米国英語の語彙力、読解力、読解スピード、内部外部の米国人プロフェッショナルとの英語コミュニケーション能力、調査のため部下を使う場合には明快な説明力等々】

となります。

そして後日のCredit Committeeでは、担当者によるプレゼンテーションのあと、その内容についてcross examinationを他の参加者と共に行い、担当者の回答をよく把握した上で自分自身の意見表明を理路整然と行うのです。担当者は自己の実績獲得をめざし全力を挙げてapproval を迫ります。自分も同意する案件でapproveする場合は特に問題はないのですが、反対意見を表明してdeclineする場合には担当者との激しいdebateとなります。

尚、このdebateこそは彼らが若いうちから学んできた考え方で、正に欧米文化の柱の一つです。こちらが納得しないのであれば絶対に負けるわけにはいきませんので、怯むことなく、堂々と意見表明をし、debateに勝つ、つまり論理的に言い負かすことが唯一の道となり、プロとしての責任の取り方ともなります。ここで要求される英語の能力は、

【担当者や、他の参加者の意見への理解力(完璧なlistening は大前提)、英語でのプレゼンテーション能力(できればネイティブに近いか少なくとも完全に通じる発音、適切で知的且つ上品な語彙の使用、説得に効果的な咄嗟の文章構成能力)、ユーモアのセンス(敢えて英語の能力としました、凍りつくシーンを和ませるのに必要)、理路整然とした語り口と相手への切り返し等々】

となります。

2-2.支店長としての業務

次に現地銀行のbranch manager(支店長)としての業務を例に挙げます。
業務は多岐に亘りますが、日常業務が手順通りに実施されているか、常に注意しておくことが大切です。頻繁に発生するholdup(銀行強盗)への備えもきちんとできているのか、日々のチェックが必要です。これを怠りますとちょっとしたミスによって、強盗が押し入ったと警察に見なされ、ものの数分で即座に発砲可能な(つまり銃の安全装置を外した)武装警官隊に包囲されます。

その場合にはmanager として両手を挙げて(撃たれないように)、自動小銃とハンドガンで武装した警官隊の前へ進み出て、ミスであるという状況を説明しなくてはなりません(これはよく起こります)。従ってここで必要な英語力は、

【法令や慣例に基づいた内部マニュアルの完全な理解に足る英文読解力、部下をチェックし回答内容より真実を把握する英語での質問テクニックと部下の発言に対する洞察に足るlistening 力 、外部のauthority(この事例では武装警官隊)へ冷静且つ正確に状況を説明することができるにふさわしい語彙力と、説得性のある英語発言力等々】

となります。

又、不幸にも実際にholdupの被害にあった場合には(実際私どもも銃を持った犯人にやられましたが)、アメリカの場合、捜査管轄が地元警察ではなくFBI(連邦捜査局)の管轄となりますので、FBI 捜査官と面談をしなくてはなりません。従いまして、Federal レベルの当局者とのディスカッションに耐えうる英語理解力と説明能力が求められます。

2-3.支店長としての部下(marketing officer)への対応

次にbranch managerとして部下のmarketing officer への対応です。
彼らは営業部隊として常に新規顧客を求めて活動しています。邦銀でのいわゆる渉外担当です。manager として支店業績の推進は、日常内部業務と並ぶ重要なmission です。彼らが新規の見込み客と交渉し、様々な報告書を提出してきた場合、内容をよく把握し、方向性を指示します。ここで必要な英語能力は、

【部下の報告書を正確且つスピーディーに読み取る英文解釈力、部下とのディスカッションをスムーズに行える支店内英語コミュニケーション能力、さらに調査や追加資料が必要な場合の英語での指示能力等々】

となります。

さらに、場合よっては組織内のしかるべき専門部署と打ち合わせをするため、組織全体での英語コミュニケーション能力も求められます。

2-4.支店長として新規の見込み客との面談

その後、適切なタイミングで部下と共に新規の見込み客と面談する運びとなります。通常はbusiness lunch の形です。その際、食事とワインを味わいながら、相手とお互いの趣味や家族などプライベートな話題も織り込み、将来性のある企業なのか等々を検討していきます。ここで必要な英語能力は、

【大切な顧客との食事の場でのフレンドリーな雰囲気を醸し出す会話力、細かい話ですが食事にふさわしいワインをベストセレクトし間違いなくオーダーできる知識と英語力、食事をしながらでも自然に核心を突く質問ができる英語での追及力、必要な社交辞令が言える語彙力等々】

となります。

 

3.日常生活での英語力

3.日常生活での英語力

仕事を離れた場合でも、海外生活では当然のことながら様々なシーンで様々な英語力が要求されます。
私の英国駐在時代、友人から聞いた失敗例をお話しいたします。病院へ行った時のこと、イギリス人医師より”How often do you pass water a day?”と聞かれ、その時彼は”pass water “を「水を飲む」ことかと思い、”I prefer beer to water. I drink three pints a day”と答えたそうです。その時、医師はきょとんとした顔をしていたと言っていました。”pass water”は「水を飲む」ではなく逆に「おしっこをする」ですね。このように、仕事から離れますと、様々な未知の世界が開けています。もちろん現地で学ぶこともたくさんありますが、できるだけ準備をしておくに越したことはないでしょう。
ここで必要なのは、

【日常生活で必要な英語、特に病院など大事な場面での英語は十分に勉強しておく】

ということです。

 

4.まとめ

4.まとめ

これまでのお話をまとめて結論的に申し上げますと、銀行員(とは限りませんがそれ以外知りませんので)の海外現地法人勤務は様々なビジネスシーンにおいて現地人スタッフを意のままに使い、与えられたmission をスムーズにこなすに足る高度な英語運用力が要求されます。

従いまして業務上は自分の属する業界のプロになり仕事を熟知すると共にリーダーシップを身に付けるほか、日頃より高レベルな英語に触れるとともに、いざ現地勤務となってもあわてない英語運用能力という刀を常に研ぎすましておくことが大切だということです。又、日常生活のシーンでは、やはりいろいろな場面での疑似体験を英語でしておくことが大切です。

そのためには、自分自身で色々なことを試され、一番合った方法をとにかく継続するのが良いと思います。この点、柔軟に対応していただける英会話学校などをフルに活用し、経験豊富な講師から良質な指導を受けながら継続していくのも一つのやり方でしょう。

私自身、日本生まれの日本育ち、帰国子女でもなく、中学校から英語の勉強を始めた日本の普通の学生でした。もちろん留学経験もありません、今のようなインターネットやYouTubeなどもありません。米国派遣前の海外経験は、3日間のハワイ旅行だけです。英語は全て日本で勉強しました。

又、本日お話申し上げたことは、私が派遣された1980~1990年代の経験に基づくものです。現在の邦銀の海外オペレーションにおける日本人の携わる業務内容はこれとは異なっているかもしれませんが、現地の組織にて英語で仕事を行うという本質部分は現在でもなんら変わりはないと思います。

今でも現地では全人格でもって、又場合によっては現地スタッフと共に命がけで対応しなければならないことが山ほど待ち受けていると思います。でもみなさん、だからこそやり甲斐があるのです。だから楽しいのです。

これから海外勤務をされる方、海外勤務を目標とされている方、皆様の今後の地球規模でのご活躍を心より祈念申し上げます。