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パイロットに必要な英語スキルとアドバイス


この記事では、元パイロットのアデュール講師によるパイロットに必要な英語とそのアドバイスをご紹介します。

1. 自己紹介

私はパイロット訓練生として航空会社に入社し、訓練を終えて最初に乗務した飛行機はいきなりボーイング747(ジャンボジェット)でした。

そしてしばらく国内線、国際線両方を飛んだ後、国内線と近距離国際線用の別の飛行機に乗り、そしてボーイング 777 という機種に乗りました。これはボーイング 747 の退役後に長距離国際線の主力機になりました。

その為、私の乗務は約1年間はアメリカ本土(ロサンゼルス、サンフランシスコ、シカゴ、ニューヨーク)、次の1年はヨーロッパ(ロンドン、パリ、アムステルダム、フランクフルト)を繰り返すというパターンで、時々シドニーや東南アジア(シンガポール、バンコク、ジャカルタ、等)を飛ぶという感じでした。ですから国内線は年に一度くらいしかフライトしませんでした。

このような長年の経験からパイロットに必要な英語力についてお話したいと思います。

2. パイロットに必要な英語レベルとは具体的にどの程度のレベルか

意外に思われるかもしれませんが、パイロットはそれほど高い英語レベルは要求されません。

管制官との交信は英語で行われるのですが、これには管制用語がきちんと決められていて、これをパイロットの初期の訓練でしっかりと身につけるので、この管制用語を使うことができればよいからです。ですからこれらの管制用語を押さえておけば英語が苦手でもパイロットとしてフライトすることはできます。実際、カタカナ英語のようにしゃべっている人もいます。

とは言っても、これは日本国内だけの話で、国際線を飛ぶには航空英語の試験に合格しなくてはいけません。

ただ、これも管制用語を正しく使い、外国人に理解できる発音ができ、少しだけ管制用語にないことを英語で説明できれば合格できます。これは英検2級程度のレベルですので、多くの日本人の方にとっては大きな問題ではないと思います。

面白いことにこのテストは英語のネイティブでも受けなければいけないそうです。ネイティブでも航空管制英語が正しく使えなかったり、訛りがひどくて聞き取りにくい場合は不合格にはならないもののコメントがつくそうです。

残念に思うことは、ほとんどの人がこの易しい試験に合格した後は英語の勉強をしなくなることです。世間一般の方は、パイロットは英語ができると思われているでしょうが、実際には、英語ネイティブ以外のパイロットについては、お恥ずかしいことに英検2級程度の英語力しかないパイロットが沢山います。

3. パイロット特有の業界英語

航空管制は AM を使った VHF で無線交信を行いますが、その際に簡潔で誤解などを防ぐための世界共通の航空管制用語が定められていて、パイロットはこの管制用語を用いて交信を行います。
例えば、以下のような会話になります。
※以下の交信のコールサインや周波数は適当です

パイロット

Tokyo Ground, Delta 777 Request taxi.
(地上滑走の許可をください)

管制官

Delta 777, Taxi to runway 27 vie A -1 D, Hold short of Runway.
誘導路 A-1 とD を経由して滑走路 27 までの滑走を許可します。滑走路の手前で待機してください)


アルファベットは A : alpha, B : bravo と言うように決められています。これも誤解を防ぐためです。ですから上記の例では、A-1 は alpha one, D は delta と発音します。
離陸ポジションに近づいたら、以下のような会話になります。

管制官

Delta 777, runway 34 (three four) wind, 300 10 (three zero zero one zero),  Cleared for takeoff.
(滑走路 34, 風は300度から10ノット、離陸を許可します)

パイロット

Delta 777 Cleared for takeoff.
(離陸します)

そして離陸すると、以下のような会話になります。

管制官

Delta 777 Contact Tokyo Departure 120.7.
( デパーチャーコントロールに周波数 120.7 で連絡してください)

パイロット

Tokyo Departure, Delta 777 leaving 2000 climbing 5000.
(デパーチャーコントロール、デルタ777 は2000フィート通過、5000フィートに上昇中です)

管制官

Delta 777, fly heading 270 climb and maintain 10000.
(デルタ777 針路 270度に向け10000フィートまで上昇を許可します)


上記の会話例はほんの一部で、かなり省略しましたが大体はこのような感じになります。

また航空無線特有のことですが、th の発音を t で発音することになっています。例えば three を tree,  thousand を tousand のように発音することになっています(そうは言ってもネイティブの人は th の発音をしますが)。

それから数字は棒読みすることになっています。例えば周波数で 125.15 は one two five decimal one five とういう具合です。しかし高度だけは数字が多いので 2000 は two tousand, 10,000 は one zero tousand と言います。

また、気流が悪い時は turbulence という用語を使い、程度に応じて light, moderate, severe をつけて言いますが、ネイティブの人は bumpy とか choppy などと言います。
アメリカやヨーロッパでは、ある便のパイロットが「現在の高度が揺れているが、揺れの少ない高度はありますか?」などと管制官に聞くことがあるのですが、その際、管制官は近くで別の高度を飛んでいる飛行機に How’s your ride? (揺れはどうですか)と尋ねることがあります。そんな時英語のできないパイロットは意味がわからず困っている事があります。

4. パイロットで英語があまり得意でない人が直面するトラブル

英語があまり得意でないパイロットが直面するトラブルというは、たくさんあります。

イギリスを除くヨーロッパやアジアのように、英語が外国語である地域の管制官とのやり取りの場合はそれほど問題はありませんが、アメリカの管制官とのやり取りでは英語が得意でないパイロットは苦労します。

私が実際に乗務していた際の実例をここでご紹介します。
私が乗務していた際、アメリカの管制官 から contact NY center 125.15 と指示があったのですが、文字で表すと簡単そうに見えますが、これをアメリカ人が早口で言うと「コナクヌーヨーセナー、ワントゥウェニファイフィフティン (one twenty five fifteen) 」(数字を棒読みしない)のように聞こえます。これを副操縦士が聞き取れなかった為、私が read back(管制の指示はその指示を同じように復唱することが求められ、それを read back と言います。)したことがあります。

アメリカでは、周波数変更時でも聞き取れない人が結構います。アメリカやイギリスの非常に混雑した空港では、管制官は非常に早口で矢継ぎ早に指示を出しますし、ついまどろっこしい管制用語ではなくスラングに近い英語を使うこともあります。そんな時は英語が得意でない人は対応できないという事態に陥ります。

もう1つ私が経験した他の事例をご紹介します。
昔は洋上飛行をする時は HF を使ってPosition Report を行っていたのですが、今は衛星回線を使った CPDLC(Controller – Pilot Data Link Communication) を使用して text message でやりとりしています。そしてアメリカからの帰りのフライトでは洋上に出る前にその設定を済ませておかなければなりません。

ある時それがなぜかなかなか繋がらなくて色々やっていたところ、管制官から CPDLC がまだ繋がっていないけどどうした?と問い合わせがあったのですが(こういった会話は管制用語にはないので普通の英語で喋ります)、これを副操縦士が聞き取れなかった為、私が「ちょっと何か不具合があるみたいで今色々試してます。もう少しお待ちください。」と英語で返答した事がありました。こんな時には口には出しませんが、「もう少し英語を勉強しておいてほしいな。パイロットなんだから」といつも感じていました。

このようなことは日本人に限らず、外国、特に東南アジアや中南米の飛行機が New York などの混雑した空港の管制官とのやりとりでなかなかうまくいかずに、管制官がイライラしているのが無線を通してもわかることもあります。

5. パイロットとして英語を使う際に大変だと感じる事、場面

国内線を飛んでいるだけだと、管制官も日本人なのでどんなにカタカナ英語でもわかってくれます。
実は航空無線では英語が共通言語ですが、その国の言葉の使用も許されています。ですから本当に英語の下手なパイロットは、国内線では日本語で喋った方がいいのではないかと思うような人もちらほらいます。

中国やロシア、フランス、その他のいくつかの国ではその国内線のフライトはその国の言葉を使っています。でもそうされると英語を使う外国のパイロットには他の飛行機の状況がわからず少し困ります。

これをもう少し詳しくご説明すると、パイロットは基本的には管制官の指示通りに飛行機を飛ばすのですが、他の航空機の無線を聞くことによって空港の混雑状況や自分の周りの他の飛行機の状況が分かり、管制官の指示を予測したり速度を変えたりして、管制官から指示される前に前方の航空機との間隔を適切なものにしたりできるため、他の航空機の無線で英語以外のその国の言語を話されていると、こういった対応が出来なくなるのです。

また、英語が母国語ではない国の中でも、管制官の英語があまりうまくない国や、とてもうまい国など様々です。もちろん個人の英語力によるところも大きいと思いますが、私の経験ではドイツ、オランダ、北欧諸国の管制官はとても英語が綺麗です。なので日本からヨーロッパに飛んでいく時、ロシアを出てヨーロッパに入る時に、ロシアの管制官からフィンランドやバルト3国の管制官に代わったときはホッとします。ロシアの管制官は一般的に英語があまりうまくない為です。

それからフランス、イタリア、スペインでは少し訛りがあります。でもそれくらいは特に問題ないのですが、東南アジアや中南米ではかなり訛りの強い人がいて理解の妨げになることがあります。

空港に着陸するときは航空路の管制官から空港のレーダー管制官に渡され、それから空港管制官に代わって、着陸後には地上滑走のための管制官に渡されます。

東南アジアのある国では航空路の管制官は特に問題なくて次に空港のレーダー管制官はちょっと訛りがありますが、特に問題なしで次に空港管制官に渡されます。この空港管制官は非常に大事であるにも関わらず聞き取りづらい英語を話します。

それでもなんとか着陸して地上管制官に渡されるのですが、これが問題で到着ゲートまでのルートを指示しているはずなのですが、いつも何を言ってるのか全く聞き取れないのです。ですから、到着ゲートはいつも同じなので自分から最短のルートを言うと管制官は何も言わないので OK なんだろうなと言うことでゲートに向かっていました。

でもこれは他人事ではありません。アメリカ人のパイロットに聞いたのですが、残念ながらというかやはりという感じもしますが、日本は英語が下手な部類に入るそうです。

このようにいろいろな地域に飛ぶとちょっと大変な時もありますが、色々なお国訛りを聞けるのは楽しいものです。印象にあるのはアラブ人の人々の R の発音が独特なことです。航空無線の場合、9 を nine ではなく niner と発音するのですが、これをアラブの人達の多くはナイナルル〜とすごい巻き舌で発音するのです。でもそのおかげで R と L は違いがはっきり分かります。ヨーロッパの言葉は R と L が違う音なのでどんな R の発音をしても L との違いがわかりますが、日本人は気をつけて R を発音しないと L との違いがはっきりしません。

お国柄といえば、イタリアの管制官はいつも陽気でイタリアの管制圏に入って管制官に Japan air 123 Flight level 400 と最初の交信をするといつもとても明るく「ボンジョ〜ルノ〜♪」と言ってから管制指示をくれます。

6. 英語にまつわる失敗した経験談

私は幸にして管制官との間では英語に関して特にトラブルはありませんでした。しかしそれ以外の場では苦労したことはあります。

アメリカとヨーロッパの航空会社の労働組合が中心となって、世界の航空会社の労働組合が集まり、航空に関する法律、パイロットの健康、会社との労務関係、航空機の設計、航空機のオペレーション、空港の施設、事故調査、等を話し合って ICAO や IATA といった国際機関に提言をする会議があるのですが、日本も加盟していて私を含めて10人ほどがその会議に参加していました。

私は航空機の設計、オペレーションの分科会に参加していたのですが、年2回の分科会と年1回の総会があって、世界各地で行われます。その会議は3〜4日間朝から夕方まで会議をします(もちろん通訳なし英語だけです)。それはいいのですが、その後毎晩パーティーがあるのです。
参加者はみんなパイロットなので話題は飛行機のことが多いのですが、ヨーロッパやアメリカの人はほとんど婦人同伴なので、その方達と話す話題に最初は困りました(ホスト国はパイロットが会議の間、パイロットのご婦人たちやお子さんのためにツアーを企画しなければなりません)。

私は最初はパーティーは苦手だったのですが、だんだんと慣れてくるものです。でも会話を楽しくするためには話題が豊富でなければならないのでそれが大変です。日本のことを聞かれる場合はいいのですが、それ以外の外国の話題はついていくのが大変です。ですからその頃から CNN, BBC, The New York Times, The Wall Street Journalを毎日チェックするようになりました。と偉そうに言っても無料版の見出しをサーと見て、面白そうな記事を少し読む程度で、CNN と BBC は放送を見ています。また、時々 Financial Times とか The Economist, Washington Post などもチェックします。いくらパイロットと言っても飛行機の話しかできないような人は馬鹿にされます。

ちなみに、こういった雑談の中で気づいたことがあります。英語は発音も大事ですが、アクセントの位置もとても重要だということです。ある時パーティーで話をしていて最高裁のことを SUpreme Court と間違って第一音節にアクセントを置いてしまったのですが 「What Court? 」と聞き返されたことがあります。間違いに気がついて SupREme Court と第二音節にアクセントを置いて言い直したら 「Oh, SupREme Court!」 と納得してくれたことがあります。それ以来単語を調べる場合発音だけではなくアクセントの位置にも気をつけるようにしています。

7. 英語で広がる世界

私は中学生になって ABC から英語を始め、ネイティブの先生についたこともなく、留学もしたことはありませんが、英語ができないとパイロットになれない(実はそんなことはなかったのですが)という思い込みと、英語ができたらカッコイイという単純な動機で英語を勉強してきました。主な教材は NHK の語学番組とカセットテープでした。

今はインターネットのおかげでいつでもどこでも生の英語が聞けて英語の勉強する環境はとても充実しています。しかもインターネットのおかげで世界中の情報が簡単に手に入る世の中になってきたのですが、その情報のほとんどは英語なので英語ができないためにせっかくの情報にアクセスできないのは勿体無い話です。

英語ができると格段に活躍の場が広がります。ぜひいろんな方法で英語を自分のものにし、世界中の情報を駆使して活躍してください。



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