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音大留学に必要な英会話(英語)とアドバイス(英国)


この記事では、英国の音大留学を経験しているアデュールの英会話講師が、これから音大留学を目指している方向けに、音大留学に必要な英会話(英語)と様々なアドバイスをご紹介します。

米国への音大留学を目指されている方は、別記事「音大留学と音大での英会話(英語)のアドバイス(米国)」も是非ご参考になさって下さい。

1. 私の経歴

皆様、はじめまして。
この記事の最初に、まずは私の経歴をご紹介します:

・英国王立音楽院ピアノ科卒業
・同音楽院大学院演奏科修了
・英国王立音楽院認定ピアノ指導者免許取得
・ケンブリッジ英語検定 CAE 取得
・TOEIC スコア955

2. 将来、音大留学を目指している方へ

将来プロの演奏家、あるいは教育者を目指し音楽の勉強をしている人たちの中には、いずれは海外で研鑽を積みたいと希望する方もいることでしょう。

最近では、たくさんの若い日本人ミュージシャンたちが、海外の有名コンクールで入賞していますし、そうして活躍している演奏家の多くは、やはり早い時期から外国人の先生のレッスンを受けたり、留学をしたりしています。実際、西洋の文化に直接触れ、感じ、学ぶ機会をたくさん得られると、やはり演奏にも幅広さが出てくるものです。

とはいえ、海外へ行くのはとても勇気のいることでもあります。言葉も文化も違うし、外国語を使って一人で生活するのも不安です。私は18歳から5年間イギリスの音大に、その後2年間はプライベートレッスンで、合わせて 7 年間、留学をしました(1995-2002 年)。たくさんの失敗や苦労もありましたが、多様な背景をもつ人々、そして芸術や文化に触れ、本当に有意義な経験をすることができました。

この経験から、私が行った英語圏の音大留学とはどのようなものだったか、そして音大に必要な英語とはどのようなものかについて、お伝えさせていただけたらと思います。

勇気をもって夢を実現させることは、とても価値があることです。もし音大留学を志す皆さんの不安を少しでも和らげ、音大留学に向けた知識と勇気の後押しが少しでもできたら、とてもうれしいです。

3. 私の英国留学経験

このセクションでは、私の英国留学のきっかけや、実際に留学して感じた事などを時系列でご紹介します。もちろんひとつの例ではありますが、きっと何か参考にしていただけることがあるのではないかと思います。

3-1. 音楽、英語、留学への興味の始まり

私は子供の頃から音楽が好きで、12歳から18歳まで、中高一貫の音楽科でピアノを専攻していました。また、小さい頃から外国の世界へのあこがれが強く、海外小説の日本語訳を読むのが大好きな少女時代を過ごしていました。

ただ、英語については、中1で挫折を感じた事もありました。「“one”は「オネ」じゃないの?」といった疑問や、「“I like dogs.” のdogs のsはなぜ必要なの?(「私は犬たちが好きです」なんて変だ!)」という風に、日本語との違いを受け入れることがまったくできず、クラスメートにいつも聞いて教えてもらい、すべてを確認して納得せずにはいられなかったのです。

その為、最初は英語に大きな壁を感じていたのですが、とにかくわかるまで何ごとも自分で調べたり考えたりする習慣がついて、中学の終わりの頃には、英語は1番好きな教科になっていました。英語が好きになると、今度はしゃべれるようになりたい、そしていつか日本の外に飛び出して、いろいろな国を見てみたいという願望が、ふつふつと湧き上がりました。

音大留学への興味のきっかけは、高校 1 年生のある日、親に頼んで購読していた『Student Times』(音楽とはまったく関係のない、語学学習者用の英字新聞です。)を、読めないなりに一生懸命読んでいたら、たまたま英国王立音楽院の入学オーディションの広告を見つけたのです。

英国・・・!私は、英語で音楽を学ぶという人生の選択肢があることを知り、ぱあーっと目の前が開けた気がしました。それからは何が何でも英国留学したい、夢を実現したい、と思い始め、そのためにも、ピアノを頑張ろう、と決心したのでした。ちなみに、その当時の私のピアノの実力は、はっきりいって、贔屓目にみても中の上。少なくとも、高校から音大留学できるような力はありませんでした。でも、情熱の力はすごいもの。無理かもしれないという気が不思議とまったく起きなかったのです。

3-2. 学校英語は得意、でも聞けない、話せない

私は留学を視野に英語を話せるようになりたくて、高校から、ジオスという、当時 ECC などと並んで有名だった大手の英会話学校に通うようになりました。また、アルクのヒアリングマラソン(1000時間英語を聞いて、耳を鍛えるという趣旨の教材です)を定期購入、さらにNHKのラジオ英会話にテレビ英会話、それらを毎日ダビングして、それはもう聞きまくる見まくる、・・・、ただただ話せるようになりたい一心でがむしゃらに勉強していました。

ところが、学校の英語の成績は上がったのですが、話す、聞くということに関しては、まったくできるようにはなっていませんでした。

3-3. 英国王立音楽院 入学オーディション

そして、高校 3 年の 11 月。私は英国王立音楽院のBmus(ビーマス)コース(=音楽学士課程)ピアノ科に入学する為の念願のオーディションを東京で受けることになりました。

課題は、実技の演奏。私はベートーヴェンのソナタと、ショパンの練習曲を弾きました。そのあとに、3 人の外国人の先生との interview (面接)がありました。面接の内容で今でも覚えているのは、ピアノ科の主任教授に、「あなたはなぜ、アカデミーを受けたいの?」と訊かれたこと。私はたどたどしい英語で「本場でヨーロッパの音楽を学びたいからです!」、と、答えました。

BecauseIwant to study European music in Europe!

たしかこんな感じ・・・。なんとも月並みな回答でしたが、熱意だけは伝わったようでした。

3-4. オーディションで言われた誉め言葉“Lovely”と合格通知

実技と面接が終わればオーディショは終了、の筈だったのですが、ピアノ科主任の先生がおもむろに立ち上がり、ピアノの前に座って手招きをしました。そして抜き打ちのソルフェージュのテストが始まりました。

リズムをたたいたり、短いメロディーを覚えて歌ったり、特段難しいことをしたわけではありません。正直、音楽高校に通っていた私には易しすぎることばかりでした。ただ、何かやるたびに、“Lovely.”という英語が耳に入り、それがとても印象的でした。

“lovely”は、『うん、いいね。』という感じの、非常にポピュラーな、イギリス人が好んでよく使うフレーズです。でもその時、そのような使い方を知りませんし、ましてや女子高生でしたから、「外人からラブリーと言われてしまった!」と、ミーハーな興奮を覚えておりました。

オーディションはまったく緊張感がなくわきあいあいとしていて、これが本当に入試だったのかしら、と、煙に包まれたような感じでした。そして1か月ほどしたころ、ロンドンから合格の通知が届きました。それはもう夢心地で、飛び上がって喜びました。あのとき、自分の運命はがらりと変わったのだなと、今でも思い出すことがあります。

(実際の合格通知)

3-5. IELTS

合格後は、オーディションの面接官でもあった、大学の registration officer(事務所長のような人)のホワイトさんという方から、入学準備にむけた諸々のレターが届くようになります。ハリーポッターが、入学前にホグワーツ魔法学校から手紙を受け取りますが、まさにそういう感じです。合格通知の後にまず届いたのは、「本校入学前に、IELTS を受けること」という手紙でした。

IELTS は、ご存知の方も多いと思いますが、一言でいえばイギリスの大学入学レベルの英語力をはかる検定試験です。アカデミック(学術英語)とジェネラル(一般英語)という、2 種のカテゴリーがありますが、大学留学を希望する場合は、アカデミックを受けます。私は高校卒業後、東京ブリティッシュ・カウンシル(英国文化庁)が運営する英語学校にあわてて3か月ほど通い、そこで試験を受けました。

結果は散々なもので、とてもイギリスの大学に入学できるレベルのスコアではありませんでした。しかし私は言われた通りに、結果のコピーをロンドンのホワイトさんに送りました。すると、「試験を受けたのですね。スコアの提出ありがとう。」といった内容の返事がきただけで、特に他に何も言われることはありませんでした。すでに合格は決まっていたので、おそらく入学までさぼらずに英語をしっかり準備させておこうという、大学の意図だったのかなとその時は思いました。

ちなみにその年のオーディション合格者の中で、IELTS を受けるよう言われたのは、学部入学をすることになっていた私だけでした。ほかの人は全員、ディプロマコース(大学院演奏科コース)志望だったのです。私が英国留学をした1995年当時はまだディプロマコースの学生は IELTS を受ける必要はありませんでした。現在では、英国王立音楽院の受験要綱にも明記してありますが、IELTS 受検ははすべてのコースの留学生に必須となりました。

ディプロマコースの学生も、アカデミックで overall6.0 以上のスコアが求められるとありますから、これは音楽学生にとってはなかなか大変です。実際には、ディプロマなら入学時に音楽留学でそこまでの高い英語力が必要だとは思えませんが、イギリスは年々、入国審査のハードルが上がっているという背景があり、音楽や芸術系の学生でも、ビザ 取得の条件として、ある程度の高い英語力の証明が求められている、いうことがあるように思います。

3-6. 十分な英語の準備なしで学部入学する事は無謀

高校を卒業した 1995 年の夏、私はイギリスへ出発しました。
留学生は入学式の一か月前から、英語クラスに参加するようにと言われていましたので、9 月中旬の新年度がはじまる前、つまり 8 月の下旬に、私は英国王立音楽院の門をくぐりました。その年の学部留学生は、私とスペイン人男子学生の2名だけ。そのほかは、すでに自国の(音大などの)高等教育機関を卒業しているディプロマコースの学生でした。

今でもそうかもしれませんが、私のように、日本の高校からダイレクトに音大の学士課程に入る学生は当時とてもまれでしたので、同い年の日本人の友達は卒業するまで一人もいませんでした。

当初、学校側では私とスペイン人の男の子に『ファウンデーションコース』という、1年間の英語の準備コースを用意してくれる予定でした。ところが入学直前になぜかそれが端折られてしまい、9 月からそのまま 1 年生の授業を受けることになったのです。これには大変当惑しました。

実はもともと私は、ファウンデーションコース(1 年)+学士課程(4年)=合計 5 年という予定で留学したのです。それが1年短くなるということは「早く卒業ができるし、学費も浮く」という、ラッキーな話でもありましたが、そんなことを一瞬でも思ったのが大きな間違いでした。まったく準備もなく大学の 1 年生になるわけですから、ただただ無謀な話です。どうしてそんなことになったのか・・・今でもわかりません。

そもそも英国王立音楽院は大変歴史ある音楽学校ですが、もともとはコンセルバトワール、つまり音楽専門学校でした。その後ロンドン大学と提携し、1991年(Wikipedia より)に、つまり私が入学するわずか4年前に、文系の大学となったばかりでした。卒業をすると学士号、修士号、博士号などはロンドン大学から授与されます。すなわち英国王立音楽院の degree(学位)を取得するということは、ロンドン大学の卒業生になるということでもあったのです。そんな大それたことを、当時の私はほぼ理解していないまま、渡英していました。

大学の授業は履修科目がそれほどたくさんあるというわけではないのですが、それでも、分析の授業や音楽史、音楽美学、第二外国語(私にとっては第三外国語!)など、やはり日本の高校英語までの知識しかない自分にはとてもついていけるものではなく、試練の4年間が始まりました。

3-7. たくさんの人に助けられて無事卒業

上述の通り、最初は英語で本当に苦労していた為、学部時代の私は学科の授業にあまりについていけず、しばらく寮に引きこもってしまった時期もありました。もうひとりいたスペイン人の留学生は、途中で学校を退学してしまいました。彼は自分のよいと思う演奏が学校の成績で反映されないことに失望した、と言っていました。

私も、academic study(学科)がただでさえ大変ですから、principal study(専攻)であるピアノのレッスンでも、先生の要求になかなか答えることができず、やる気も根気も失ってしまい、時にはレッスンをボイコットしたことがあります。けっして優秀な学生ではなかったのです。ただもし日本語が通じていれば、あるいは私にもっと英語力があったならば、あれほど苦労することはきっとなかったでしょう。

でも、そんな私にも、困ったとき、ここぞというときには、友人、先生方が必ず手を差し伸べてくれました。単位もギリギリですが取ることができ、本当に首の皮一枚で、4年生の最終試験を合格することができたのです。また翌年には、大学院ディプロマコースも当時2年間だったところを 1 年に短縮し、修了することができました。本当に悲喜こもごもの留学生活でしたが、英語を通して、様々な国から来たたくさんの友人もでき、心も鍛えられ、数えきれないほどの貴重な体験をすることができました。今となっては、「大変だったけれど、本当に行ってよかった。」この一言につきます。

4. 大学の入学、授業、課題 etc.

さて、ここからは、学生生活で私が経験した諸々のことを、少し具体的にご紹介していきたいと思います。

4-1. 入学手続き

留学先への合格が決まると、事務方から定期的にメールやレターが送られてきます。まずその指示内容に沿って、ひとつひとつ入学手続きをしていくことになります。

〇各種証明
私の時には、銀行残高証明が必要となりました。空港の入国審査の際にも提示する必要があり、銀行で英語の残高証明書を作ってもらいました。また高校の成績証明書も必要とのことで、大学から送られてきた A3 ほどもある用紙2~3枚に、高校の担任の先生が英語の先生と相談しながら一生懸命、英語で書いてくださいました。今思えばあれは本当に大変だったと思います。

〇学生登録
イギリスでは、学生登録(入学登録)のことを、“enrollment” と言い、大学側から、新年度が始まる前に、「〇月〇日~〇日の間に、enroll を済ませてください」といった通達が来ます。
今はこのご時世ですので、ほとんどの手続きをネットで行っているようですが、私が留学していたころは、大学内の“registration office(事務)”に行って enrollをしました。これをすることで、学生証などが発行され、晴れて大学生となるわけです。

4-2. 授業

〇基本は少人数
学生は各自、入学したコースを修了するために複数の授業を必要単位分、受講することになります。イギリスの音大はそもそも学生の数が多くないので、少人数のクラスが基本です。私が大学1年生の時の分析の授業は、先生が1人に生徒がたった3人で驚いたものです。

〇パフォーマンスクラス
英国王立音楽院では、各科で『パフォーマンスクラス』というものがありました。ピアノ科なら全学年のピアノ科の生徒が毎週決まった日に一同に会し、その日担当のピアノ科教授によるマスタークラスが行われるのです。演奏者には事前に「何か月後、パフォーマンスクラスで演奏してください」、とお知らせが来ます。その他の学生は客席で聴講し、ディスカッションに参加したりします。自分の担当でない先生のレッスンを見たり受けたりすることはとても新鮮で刺激的でした。
英語についてですが、それぞれの先生にアクセントの癖があるので、慣れていないと結構難しく感じることもありました。ただ、やはり音楽のことですから、何を言っているのかは大体理解できるものです。

〇アンサンブル
アンサンブルの授業もすべての学生に必須でした。アンサンブルは英語でchamber music”と言います。ピアニストは伴奏の依頼も多いので、相手探しにはあまり困らないですが、違う楽器の仲間を探し、曲を決め、合わせ(=rehearsal)の日時や場所決める。また chamber music 担当の教授のレッスンを受け、コンサートをする。こうした音楽に関わる一連の活動を仲間とすることによって、さまざまなコミュニーショ能力が身についていきます。

〇必修科目と選択科目
必ず受講しなければいけないクラスのことを、“compulsory classes”と言います。これらは年間通してしっかり出席しなくては、卒業ができません。逆に、自分で選んで履修する科目のことを、”elective(s)” と呼びます。
私が 4 年間の中で一番楽しかった compulsory class は正直ひとつも思いつかないのですが・・・、一方 elective で取った、「音楽美学(” Aesthetics of Music”)」のクラスは非常に楽しかったです。先生とクラスの仲間で現代音楽のコンサートに行ったり、グレン・グールドのバッハ演奏についてディスカッションをしたり・・・。コース最後のプレゼンテーション課題では、私は「武満徹の音楽と禅の関係、また西洋音楽との『間』の感覚の違い」などを、ピアノ演奏を交えながら発表しました。クラスメートも思った以上に関心をもってくれ、唯一、これが私が自分なりに学科で達成感をもって終了することができた科目でした。

4-3. 大学の宿題

宿題、というと私たちはまず“homework”という単語が思い浮かびますが、イギリスの大学では“assignment”と呼ぶことが多いです。「提出課題」、という感じでしょうか。演奏科の学生には基本的にそういった課題が出されることはありませんが、学部生ですと、いくつかの科目で“assignment”があります。

〇レポート提出
レポートは“essay”または “writing assignment”などと言います。期限までに与えられたテーマで、「4000words の”essay”を”提出しなさい」、と課題が出されるのです。英語論文としての structure(構成)を意識し、参考文献なども掲載しなくてはいけないなど、日本人にとっては一番つらい課題です。こうしたアカデミックな宿題については、いつでも相談できる友人や先生がいるとよいですね。私はなかなか人に頼れなかったので、ひとりで抱えてしまいかなり苦労しましたが・・・。

〇課題図書
選択授業などでは、先生が紹介した文献集を渡され、いつまでに読んでおくようにと言われることがあります。実技やほかの授業ですでに手一杯なのに、英語でアカデミックな難しい本を読むなんて本当にもう無理・・・と、よく弱音を吐いていました。

4-4. 大学の定期試験

専攻楽器(principal study)の試験は”exam”、 学科(academic study)の試験は”assessment”と呼ぶことが多かったです。履修している科目の試験スケジュールは年度初めにおおかた知らされます。ただ、学生が皆同じ部屋に集まって紙の問題を解く、というような試験はあまり記憶にありません。たしか大学 1 年の分析の授業くらいだったように思います。

試験といえばやはり、年度末の実技試験が何と言っても大切ですので、それまでに学科の提出や試験が問題なく終わっていることはとても重要でした。とにかくそれまで頑張る、という 1 年を卒業まで毎年繰り返すのです。

(実際の成績表)

4-5. 学生同士のコミュニケーション

〇アンサンブル仲間
アンサンブルを組むと、英語でのコミュニケーション力は格段に上がります。練習室のブッキングの相談、リハーサルでのディスカッション、仲良くなれば一緒に学内のカフェでランチをしたりもします。そこでロマンスが生まれることも多々ありました。

〇同門の絆
同じ教授門下の学生ともとても親しくなりました。先生の話で盛り上がったり、音楽やレッスンのことで相談をしあったり、試験前には演奏を聴きあってアドバイスを交換したり。また先生を囲んで食事に行ったり、バーで飲んだりすることもありました。

〇音楽がつなぐふれあい
私がいまでもとても驚いて忘れられないのが、学内で 2 台ピアノのコンサートをした時のこと。演奏後にカフェテリアでお茶をしていると、見ず知らずの学生がうしろから私の肩をポンっとたたいて、「さっきの演奏、すごく楽しかったよ!」と声をかけてくれたのです。これにはカルチャーショックをうけました。留学をして知ったのですが、いい演奏を聞いたら知り合いでなくても気軽に声をかけて賞賛する。そんな文化が海外にはあるのですね。これは本当にうれしかったですし、素敵だと思いました。

4-6. 教授とのコミュニケーション

〇担当教授との関係
担当教授としっかりとした信頼関係を築くことは留学生活においてもっとも重要なことだと私は思います。それは、先生の意向と自分の希望がしっかりとかみ合わなければ、レッスンだけではなく、留学生活そのものがつらいものになってしまうからです。ですから常に自分が思っていること、感じていることをしっかり先生に伝えることが大切だと思います。

〇礼儀
日本でも海外でも、礼儀は大切です。
ことに日本の音楽教育界では、子弟の礼儀を大変重んじますので、海外ではどうなのか、と疑問を持たれる方もいるかもしれません。でもそれは、日本でしてきたことをそのまま同じようにすればいいと私は思います。最初のレッスンの時には、日本からのお土産など持っていけば大変喜ばれるでしょう。もちろん別にそれがなかったからと言って、気を悪くされる先生はいないと思います。ただ、日本の常識も、海外の常識もあまり変わりはないので、感謝などの気持ちを、場面に合わせて、思い思いの形で伝えられるとよいのではないかと思います。

〇挨拶
日本では当たり前の、レッスン前の「お願いします」という挨拶。これが英語にはありません。先生と顔を合わせたら“Hello, Professor ○○(○○先生、こんにちは。)”で大丈夫です。だんだん親しくなって慣れてきたら、先生でも下の名前で呼びます。レッスン室やご自宅に伺った時なら、先生から、以下のように言われます:

Hi, Tomoko! How are you?
(やあトモコ、元気かい?)

Hi, sweetie. How’re you doing?
(やあ、お嬢ちゃん(sweetie=親しみを込めた呼び方)、調子はどうだい?)

それに対して、私は以下のように答えます:

Hello, ●●(先生の下の名前). I’m great, thank you!
(先生、こんにちは。おかげさまで元気です。)

気さくな先生なら、そこでハグをして、頬にキスをしたりします。それから奥に通されて先生の雑談を聞いて、へえそうですか、はあすごいですね、なんて相槌をうちながらピアノに座ります。で、先生が、”So, what are you going to play today?”(さて、今日は何を弾くんだい?)とおっしゃれば、もうレッスン開始です。

私は7年いても、先生の呼び捨て、というか「ファーストネーム呼び」に最後まで慣れませんでしたが、尊敬する先生と、日本では考えられないほどとても親しくコミュニケーションが取れたことは、演奏にも大変大きく影響しました。先生に対する何とも言えない親近感、安心感は、今でも、私の音楽人生の大きな支えになっています。

〇選曲
選曲について、先生と相談、つまり discuss する場合についても少しご紹介します。今後どのようなレパートリーを増やしていくべきか、コンクールなどでどの曲を選択するべきか。これはとても大切な勉強のプロセスですよね。たいていは先生が提案し、それを次回のレッスンまでに練習していくことが多いかと思いますが、自分が勉強したいと強く思っている曲がある場合もありますよね。
自分の教えたいレパートリーがとてもはっきりしている教授もいますので、そこではやはりコミュニケーションがとても大切だと感じます。例えば以下のように、先生から希望を聞かれるかもしれません。

Is there any particular piece (or composer) you want to study?
(君は、特に勉強したい曲(または作曲家)はありますか?)
※曲、または音楽の作品のことを英語では“piece”と言います

私の場合は先生に決めてもらうことが多かったのですが、時には自分の好きな曲もレッスンしてもらいたい。そんな時は、以下のような伝え方ができます:

I’d like to study Chopin’s 24 Preludes.
(ショパンの24のプレリュードを勉強したいです。)

あるいは以下のような言い方もできます:

Actually, I haven’t played any Beethoven’s late sonatas yet.
(じつは、私はまだベートーヴェンの後期のソナタを弾いたことがありません。)

こんな風に言えば、先生も意見をくださると思います。また現代曲など、あまり知らないジャンルの音楽が試験の課題に入ることも多いですから、そんな時は、以下のように先生のオススメを伺うこともよくあります:

Could you recommend some contemporary pieces ?
(現代曲をいくつかおすすめしていただけますか?)

ここで大切なのは、先生の提案に自分が納得しているかどうか。そして自分に強い要望があれば、それは遠慮なく伝えられているかです。子弟関係という意味では、日本も海外も違いはないのですが、やはり英語圏では思っているよりずっとはっきりと、自分の意見を正直に伝えてもよいと思います。試験やコンサートなど、大一番のプログラム構成などは、選曲に対する自分の思い入れというものも重要ですので、しっかり意見をもって伝えたうえで、先生の意見にも耳を傾け、じっくり吟味できるとよいですね。

4-7. 大学の行事

大学では、コンサート、マスタークラス、コンペティション、パーティーなど、学内の様々な行事が、年間を通して催されます。

毎年発行される大学の Diary of Events(年間ガイド)に紹介されているものもあれば、随時 notice board(掲示板)に貼られるもの、また学生ひとりひとりに与えられたpigeon hole(ポスト)に配られるお知らせなどもありますから、常時アンテナを張っていることで、その中で関心のあるものを選んで参加することができます。学生生活を送っていると、そうした「お知らせ=notice」の英語は自然と読めるようになってくるのが不思議です。これもまた留学の醍醐味ですね。

5. 音大留学で必要な英語力

音大留学で必要とされる英語は、何を目的として留学するのかによって大きく異なります。
私は 5 年間イギリスの音大と大学院(のディプロマコース)に、その後は尊敬する先生のプライベートレッスンに2年間、通いました。

ですが、この記事を読んでくださっている方の多くは、きっとここまで長期間の留学を予定しているわけではないと思います。おそらく1年から2年、師事したい先生のいる音大に所属し、個人レッスンを受けながら研鑽を積み、いずれはコンクールやディプロマの取得を目指す方が主なのではないでしょうか。そうなると、英語というのはそこまで重要ではなく、何よりも自分が専攻する楽器にいかにエネルギーを注ぎ、フォーカスしているかということの方が大切です。

そこで「音楽留学において必要な英語レベル」のイメージをお伝えするために、以下に、あらためて大まかな音楽留学の2つのタイプと、それぞれに必要となる英語レベルについてご説明します。

5-1. 音大の主なコースは 2 つ

英語圏(英国の場合)の音大は、主に2つのコースに分かれています。以下は、私の通っていた英国王立音楽院(Royal Academy of Music)のコースです。

①Degree(学位)コース
・Undergraduate(学部)
取得学位:B Mus (bachelor of music) Degree Course 音楽学士課程
・Postgraduate(大学院)
取得学位:M Mus (master of music) Degree Course 音楽修士課程、PhD. 博士課程

②Diploma(演奏科)コース
・Postgraduate Performance Diploma(大学院演奏科ディプロマコース)
※postgraduate(=大学院)ではあるが、学位の取得はできない

5-2. Degree(学位)コースで必要な英語レベル

すでに述べましたが、私が18歳で入学したのはDegreeコースの学士課程です。ここではすべての講義を英語で、しかもアカデミックな内容を理解するという、非常に高い英語力が必要不可欠です。

9月の新年度、つまり“academic year” が始まると、レポート、エッセイ課題、プレゼンテーション、アセスメント(試験)などなど、さまざまな座学の課題が待っています。外国語(英語以外)や、必修科目、選択科目にくわえて専攻実技、オーラル(ソルフェージュ)、アンサンブルなどのレッスン。ひとりで海外生活をするだけでも大変なのに、練習時間も確保しつつ、単位を取得していく、それは想像以上にハードなことです。

英国王立音楽院では週一回、留学生のための英語のクラスを学校側が設けてくれていましが、アカデミックな課題のサポートを受けるとなると、時間的にも難しかったため、私は最後まで英語には苦労しました。提携しているロンドン大学の英語クラスを取らせてもらったりもしましたが、ピアノの練習や、ほかの教科の課題に追われて時間も体力もアップアップ。「ディプロマの人たちはピアノだけ弾けばいいのだからいいなあ・・」と、心からうらやんだものでした。

もちろん、本当に困ったら、学年主任やチューター(指導教員)に相談することができます。英語のサポートが必要ということをしっかり訴えることは留学生にとってとても大切です。私も、このままでは単位が足りない、どうしよう!と追い詰められたときがありましたが、担当チューターの、『僕たちは君を追い詰めるためにいるんじゃないんだよ、助けるためにいるんだ。』という言葉に、本当に救われました。

自分の現状把握をし、何をどうしたら卒業することができるのか、折に触れてマンツーマンでサポートしていただいたおかげで、必要な単位を何とかクリアでき、私は4年間の学士課程を奇跡的に修了することができました。辛くなったら抱え込まずに「誰かに頼ること」は、とても大切です。

では学部留学で困らないためには、入学時どのぐらいの英語力が必要なのでしょうか。私の経験では、高校英語の上レベルは最低限必要だと思います。英検なら準 1級以上でしょうか。それに加えて、TOEFL、IELTSといった英語検定の対策コースに通うなどをして、なるべく早いうちからしっかりと勉強を始めることをおすすめします。もし楽器の練習が忙しいのであれば、家庭教師をつけるのも選択のひとつです。

5-3. Diploma コースで必要な英語レベル

ディプロマコースは、演奏に特化したコースです。
このディプロマコースの場合、正直に言えば、ごく基礎的な英会話ができれば十分です。留学直後はいろいろと戸惑うことがあっても、学校が始まれば、レッスン、アンサンブルでのコミュニケーションで困ることはほぼありません。なぜなら、音大の教授や学生仲間は、みんな『音楽』という世界共通語をもった仲間であり、大体のことは言葉に頼らなくても感覚や想像で理解しあえるからです。

もちろん、学術的な知識、作品や作曲家についての洞察、歴史的背景などを言葉で細かく説明し、理解を生徒に求める説明型タイプの教授もいます。また英語の訛りが強く、聞き取りにくい先生、学生もいることでしょう。だとしても、関わる時間が長くなればなるほど耳も慣れてきますし、相手もまた、こちらの理解度に合わせたやさしい言い回し、スピードで話してくれるようになります。

ですから、将来ディプロマで音楽留学を目指す、あるいはすでに留学先の大学が決まっているのであれば、今からするべきことは、何をおいても本業の実技をこれまで通り、またはそれ以上にしっかりと準備しておくことだと思います。

英語については、今の自分に可能な範囲で、ごく基礎的な英会話を練習しておきましょう。はっきり言えることは、言葉については必要以上に心配する必要はない、ということです。ええ?と思う方もいるかもしれません。でもなぜそのようなことを断言できるかというと、何度も述べましたとおり、私は大学と大学院、そしてプライベートレッスンで、計7年間、イギリスにいました。その間には、大変多くの日本人留学生と出会っています。共通するのは、みなさん苦労するのは最初の1か月ほど。でもその後は本当に生き生きと人間関係を構築し、学びや遊び、そして海外の暮らしを満喫していました。

あるディプロマのピアノ科留学生の話ですが、イギリス留学が決まった時に、学校の友達に英語は大丈夫なの?と訊かれたのだそうです。その人は、「『アイ アム ア ペン』、しか言えないけど、何とかなる!」と答えたそうです。“This is a pen.”ですらありません。アイ アム ア ペン!(私はペン!!)。そんな彼女も2年間の留学生活を満喫し、担当教授ともレッスンで音楽的な意見をたくさん交換しながら、貪欲に学んでいました。そして己を貫くガッツと情熱によって、最終試験ではすばらしい成績をおさめ卒業したのです。

彼女に限らず、ディプロマコースで英語が苦手という方は多いです。それでも、立派な成績で卒業される方は多く、音楽においては海外の共演者たちに信頼されるすばらしいミュージシャンたちばかりでした。これまで『音楽一筋』でがんばってきたということが、結局はその人の留学生活の軸となり支えになる、ということは間違いありません。

6. 音楽専門用語について

英語圏での音楽用語は、日本と同じように、ドイツ語やイタリア語が多いですが、もちろん英語独自の表現もあります。クラシックを勉強していると、どうしても音名や調名などがドイツ語になりますが、英語圏では英語になります。ポピュラーやジャズをする人達は英語を使うので、その点は楽ですね。

もし留学前に音符の名前や記号の呼び方など、基本的な音楽用語を学びたい場合は、英国王立音楽検定のセオリー(音楽理論)の教科書が、日本でもネットで手に入ります。日本でセオリーの試験を英語で受けることもできますので、留学準備の一つとして挑戦してみるのもよいと思います。ただ多くの留学生は専攻実技をしっかりとやっていれば、言葉は後からついてくるという経験をします。ですから、あまり心配をしたり、知識不足なのでは、と不安を覚える必要はありません。

7. 「私はピアニストです」と言う慣習

イギリスでは、音楽専門の大学まで進んでいるということは、すでに立派なミュージシャンとみなされます。日本では当たり前の、「専攻はなんですか?」「ピアノ科です。」という会話も、“What do you play?”(何を弾くのですか?)に対しては、“I’m a pianist.”(私はピアニストです。)でよいのです。

「彼女、いい演奏するのよ。」なら、“She’s a good pianist.”となります。ああ、私、ピアニストなんだ・・・と、最初はちょっと気恥ずかしくも感じたのですが、英語ではごく自然な言い方です。

もちろん、ヴァイオリン専攻で、”I play the violin.”(私はヴァイオリンを弾きます。)とか、”I major in violin.”(私はヴァイオリン専攻です。)でも、問題はありません。そうしたら、きっと相手は、“Oh! You are a violinist! Brilliant!”(へえ!ヴァイオリニストなの?それはすばらしい!)と、リアクションをしてくれるでしょう。

このように、現地で自然なフレーズを、会話の中で学んで覚えていくことが留学生活ではたくさんあります。もっと言えば、私の時代、英語をしっかり勉強して留学していた日本人の留学生はあまりいませんでした。でも、何か月かすれば、上で述べたようなことの積み重ねから、みな自然に英語を使っていけるようになったのです。何事も実践に勝るものはない、ということですね。

8. まとめ

「海外の音大に留学して、外国人の先生にレッスンを受けるとしたら、どのくらい英語が話せれば、十分な指導を受けることができるのだろう。」という風に、少し不安になっている方も多いかもしれませんね。本当についていけるだろうか、と。

音大留学にまつわる英語の疑問をこれまでの内容で少しでも解消できたかどうかはわかりませんが、私が最後に繰り返しお伝えしたいのは、あくまでも実技に焦点をおいて、何を学びに行くかという意思が自分でしっかりしていれば言葉の問題はなんとかなる、ということです。

ただイギリスの音大留学の場合、IELTS は受けなければなりませんので、それは、留学を意識した時点から、少しずつ勉強を始めましょう。また学内でのレターや友人、教授とのコミュニケーションがより円滑にできるためにも、基本的な英会話はできるにこしたことはありませんから、日常会話のレッスンも、無理のない範囲で始めるのがいいですね。やはり英語を使ってさまざまな国籍の人と会話ができるようになっていれば、どこの国へ行っても困ることはありません。

夢は大きく、そして自分が今からできることから少しずつ始めてみてください!


いかがでしたでしょうか?

音大留学を検討されている方には、参考になる情報も多かったと思います。
冒頭でもご紹介しましたが、米国への音大留学を目指されている方は、以下の記事も是非ご参考になさって下さい。

アデュールでは、実際に音大留学を目指して英会話レッスンを受講されている生徒様もいらっしゃいます。
音大留学の為に英会話受講を検討されている方は、是非アデュールの体験レッスンをお試し下さい!

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